将棋世界の近代将棋史年表に『最強者選抜戦』なる棋戦の記述がある
昭和23
9・1~10月12日
夕刊三社連合で東西の俊英『大山康晴対丸田祐三両八段三番勝負』を行う。大山二勝。
①大山勝ち②9月7日丸田雪辱③大山勝つ。
11~12月
夕刊四社連合(北海、名古屋タイムス、ニイガタ、フクニチ)主催『大山康晴八段対松田茂行七段三番勝負』行わる。二ー一、大山勝つ。
昭和24
2・27
夕刊四社の『最強者選抜戦』に大山康晴八段優勝。
これを記念して塚田正夫名人―大山康晴八段の特別対局おこなわる。於、若松寺。
該当時期は福岡にしか所蔵のないフクニチ以外を調べてみると、
夕刊北海タイムス |
強豪三番勝負 |
夕刊名古屋タイムズ |
丸田大山(大山松田)三番勝負 |
夕刊ニイガタ |
最強棋士選抜大棋戦 |
とそれぞれ名称が違うものの、この近代将棋史年表に記載されている将棋を掲載している。
夕刊北海タイムスが大きく社告で紹介しているので紹介すると、
夕刊北海タイムス1948/9/8
夕刊北海タイムス1948/12/11
この三番勝負2つに勝った事で棋戦を優勝した扱いとなり、最後に名人との記念対局を行ったようだ。
(当時は、棋戦で優勝すると名人と記念対局を行えるという特典があった)
この記念対局の社告は夕刊北海タイムスが欠号で入手できなかったため、夕刊ニイガタの記事を紹介する。
夕刊ニイガタ1949/3/4
(対局日は2/27で、大山康晴全集の2/24は誤りなのが分かる)
問題はここから。
大山松田戦の第2局は105手で大山勝ちとなっているのだが、その最終手がおかしな事になっている。
夕刊ニイガタ1949/2/21
最終手は▲6七歩となっているが、3/7の記事で訂正が入るのである
夕刊ニイガタ1949/3/7
新潟の読者から即詰みがあるという指摘を受けた結果、なんと棋譜そのものを記録の誤りとして訂正しているのである。
歩と玉を間違えるなんて事はあるのだろうか。
しかも観戦記者の不注意をお詫びするという謎の文言。
もし不注意があったとしたら、それは詰みを逃した松田茂行七段ではないのか。
他紙を確認してみる。
夕刊ニイガタより掲載の早い夕刊北海タイムスでは最終手は▲6七歩であり、これには訂正記事が入っていない
それでは、夕刊名古屋タイムズはどうか。
夕刊名古屋タイムズ1949/3/7
掲載が一番遅い夕刊名古屋タイムズは3/7が最終譜で、最終手は▲8七玉になっている。
▲8七玉自体は▲8八玉の誤りだと思うのだが、▲6七歩はなかった事にされている。
("七"になっている辺り、▲6七歩を修正した名残りがあるような気がするが)
どっちが正解なのか分らないので、大山康晴全集を確認した所、もっと驚く結果となった。
途中で違う将棋になっているのである。
大山康晴全集に収録されているのは、将棋棋譜DB2の下記の将棋と同じものである。
1948-12-18 その他の棋戦大山康晴 vs. 松田茂役 その他の棋戦(将棋棋譜DB2)
71手で大山勝ちとあるが、新聞掲載の将棋は60手目△2二飛の所を△同角としており、以降全く別の将棋になる。
将棋そのものも謎で、松田茂行七段が形勢不利とはいえ、まだ中盤で終局している。
当時の週刊将棋を読むと大山名人の棋譜ノートから拾っているようなので、大山名人が以降省略していた可能性があるとも言えるが、ここまでの流れからすると不自然ではある。
ここで一旦整理する。
掲載 |
掲載開始 |
掲載終了 |
60手目 |
最終手 |
手数 |
補記 |
夕刊北海タイムス |
1949/01/15 |
1949/02/09 |
△同角 |
▲7六歩 |
105手 |
訂正なし |
夕刊ニイガタ |
1949/01/29 |
1949/02/21 |
△同角 |
▲8八玉 |
105手 |
最終手を3/7に訂正 |
夕刊名古屋タイムズ |
1949/02/06 |
1949/03/07 |
△同角 |
▲8七玉 |
105手 |
最終手は▲8八玉の誤り? |
大山康晴全集 |
|
|
△2二飛 |
▲4六歩 |
71手 |
中盤で終局 |
一体どの棋譜が正しいのだろうか。
105手が正しいとすると、大山名人が60手以降の記憶を間違え、記憶があやふやなため71手で棋譜つけるのを止めたという線は考えられる。
この場合2パターンがありえる。
・そもそもが最終手▲8八玉の将棋であったが、その際伝達ミスがあり最終手を違う将棋で掲載。
・最終手は▲6七歩で、松田茂行七段が詰みをうっかりした。
一方、71手の将棋が正しいとすると、読者に分かりづらいため60手から新聞掲載用に棋譜を変えたという線も考えられる。
その際最終手をうっかりしたため、後に訂正が入ったのではないか。
当時採譜した棋譜用紙が現在保存されていないようなので、一次史料で確認できないのが最大の難点である。
真相はどちらなのだろうか。
ご存知の方がいたら、教えていただきたい。
新聞掲載の将棋の棋譜は以下から
最強者選抜戦 大山康晴八段対松田茂行七段第2局(将棋IO)