2017年夏、将棋界は冷やし中華の話題で盛り上がった。
チャーシューを追加する丸山流は多くの棋士が真似をして流行し、餅を追加した佐藤康光新手は独創的すぎて追随者はでなかったものの、大きな話題になった。
前回は佐藤新手から郷田流餅入り定跡を振り返ったわけで、今回は続けて、冷やし中華の方もこれまでの流れを振り返ってみようと思う。
といっても、細く調べようと思っても中継がない分は追えないので、
「全クラスの食事情報が公開された2006年度以降の順位戦と、2017年度のモバイル中継された対局」
を今回は対象とした。
・2018/7/26追記
記事投稿後、2017/10/19の順位戦で橋本崇載八段が「ほそ島や」の冷やし中華大盛(チャーシュー3枚追加)を注文した。
そのため、勝敗や表はこの注文を足した上で改めて集計したものに修正した。。
調べてみて驚いた。2017年度は将棋界史上空前の冷やし中華、及び冷やし中華追加注文ブームが訪れていたのである。
まずは順位戦の年度別成績等の一覧はこちら。
年度 |
勝 |
負 |
勝率 |
2006年度 |
8勝 |
7敗 |
53.3% |
2007年度 |
9勝 |
15敗 |
37.5% |
2008年度 |
5勝 |
7敗 |
41.7% |
2009年度 |
11勝 |
4敗 |
73.3% |
2010年度 |
6勝 |
7敗 |
46.2% |
2011年度 |
12勝 |
6敗 |
66.7% |
2012年度 |
18勝 |
12敗 |
60.0% |
2013年度 |
6勝 |
8敗 |
42.9% |
2014年度 |
4勝 |
12敗 |
25.0% |
2015年度 |
9勝 |
11敗 |
45.0% |
2016年度 |
8勝 |
15敗 |
34.8% |
2017年度 |
21勝 |
18敗 |
53.8% |
合計 |
117勝 |
122敗 |
48.9% |
昼食 |
85勝 |
102敗 |
45.5% |
夕食 |
33勝 |
20敗 |
62.2% |
ほそ島や |
55勝 |
59敗 |
48.2% |
みろく庵 |
23勝 |
19敗 |
54.8% |
紫金飯店 |
6勝 |
5敗 |
54.5% |
大盛注文 |
5勝 |
8敗 |
38.4% |
今年度は、2012年度の31回を抜いて延べ39回冷やし中華が頼まれた。
これは、将棋界における冷やし中華レコードである。
これには2つ理由がある。
まず、今年度から冷やし中華界に新規参入した紫金飯店の存在が大きかった。
新メニューがあるなら頼んでみる、という層が一定数いるようで、今年度は、初めて順位戦で冷やし中華を注文した13名のうち、
「中川大輔八段・戸辺誠七段・村中秀史六段・髙見泰地五段・門倉啓太五段」
の5名が紫金飯店で注文している。
もうひとつは、冒頭でも挙げた通り、追加注文ブームである。
将棋界におけるチャーシュー追加注文履歴と、順位戦におけるそれ以外の追加注文履歴は以下。
チャーシュー追加一覧(ラーメンにチャーシューを追加した分も混ざってます)
追加注文一覧
ご覧のように、2017年度になって急増しているのが分かる。
これは丸山流チャーシュー追加が流行った事もそうだが、紫金飯店で気軽に半炒飯が頼めるようになった事も大きく影響している。
この追加注文の勝敗実績を見ていくと、
・チャーシュー追加は1枚では軽く、2~3枚が適正、それ以上追加したり大盛にするのは指しすぎ
・それ以外の追加は格調高くおにぎりや、水500ml程度にしておくのが適正
・炭水化物の追加は半炒飯までで、餅やざるそば、カツ丼は指しすぎ
という事が言えるのではないだろうか。
今年度は冷やし中華の注文時の負けが目立つように思えたが、順位戦で見る限り勝ち越している。
印象と異なるので、2017年度分は中継された他の棋戦にも手を広げて調べてみた。
7月を境に他棋戦では負けが多い。
特に竜王戦の決勝トーナメントでは、冷やし中華を頼んだ棋士は全敗である。
このように、大きな舞台での敗戦が目立つ事、そしてチャーシューや餅というインパクトのある追加注文ではほとんど負けている事から、冷やし中華の負けが目立つように思えたようだ。
ちなみに、2017年度の中継局の通算は29勝31敗と勝敗の偏りがなくなっている。
なお、表で見れば分かる通り、冷やし中華注文は圧倒的にほそ島やが優勢である。
みろく庵との割合はほぼ4:1。みろく庵で注文されるのは
・ほそ島やが休みの時
・おにぎりなど追加注文をする時
・受け取ったメニュー表の一番上がみろく庵だった時(2014/7/3 B級1組飯塚祐紀七段)
・昼夜でほそ島やとみろく庵の食べ比べをしたい時(2012/7/19 B級2組森下卓九段)
等の事情挙げられるが、一部棋士にみろく庵の冷やし中華党がいる。
2006年度以降の順位戦において、みろく庵で3食以上食べてる棋士は以下の4名
|
みろく庵 |
ほそ島や |
不明 |
髙﨑一生六段 |
7勝0敗 |
0勝0敗 |
1勝2敗 |
郷田真隆九段 |
3勝2敗 |
4勝8敗 |
0勝2敗 |
田中寅彦九段 |
2勝1敗 |
0勝1敗 |
0勝2敗 |
田中悠一五段 |
0勝3敗 |
0勝0敗 |
-------- |
冷やし中華党の郷田真隆九段は基本的にはほそ島やだが、昨年度はほそ島やの冷やし中華で3連敗した後みろく庵の冷やし中華で連敗を止めるなど、気分転換にみろく庵でも注文をしている。
しかし、その他の棋士はみろく庵の冷やし中華党と言って良いと思う。
特に髙﨑六段は、不明分がみろく庵だったとしても勝率8割と恐ろしい事になっている。
来年度の順位戦では、髙﨑六段の冷やし中華注文に是非注目したい。
そして将棋界の冷やし中華党は誰か、も考えたい。
2006年度以降の順位戦において、冷やし中華を10食以上食べている棋士は以下の4名。
|
みろく庵 |
ほそ島や |
不明 |
合計 |
島朗九段 |
-------- |
9勝11敗 |
2勝3敗 |
11勝14敗 |
郷田真隆九段 |
3勝2敗 |
4勝8敗 |
0勝2敗 |
7勝12敗 |
村山慈明七段 |
-------- |
4勝2敗 |
3勝3敗 |
7勝5敗 |
髙﨑一生六段 |
7勝0敗 |
0勝0敗 |
1勝2敗 |
8勝2敗 |
特に島九段はシーズンのほとんどで冷やし中華を食する、生粋の冷やし中華党である。
唯一二桁勝利を挙げているのもポイントが高い。
2人めの10勝争いも現在白熱していて、
・オールラウンダーの郷田九段
・ほそ島や党の村山七段
・みろく庵党の髙﨑六段
三つ巴の争いとなっている。
こちらも来年度以降注目して見ていきたい。
最後に冷やし中華注文における主なトピックを挙げて〆とする。
(特に記載のない場合は順位戦においての注文)
2007年度
7/17 淡路仁茂九段、昼食に冷やし中華を注文するが、対戦相手の中村亮介四段が対局場に現れなかったため、食べる前に勝利する。
2008年度
8/13 羽生善治名人、竜王戦で昼食に冷やし中華を頼むが、ほそ島やが休みだったため注文をキャンセルする。対戦相手の深浦康市王位は、みろく庵の冷やし中華とおにぎりを注文した。
2009年度
7/3 橋本崇載七段、冷やし中華に加え天然水(2L) オレンジジュース3本を注文する。
8/10深浦康市王位、竜王戦の昼食にほそ島やの冷やし中華にみろく庵のおにぎりを注文するも、
みろく庵の注文者が他にいなかったため、おにぎりだけ出前をしてもらうのは申し訳ない、
という理由でおにぎりの注文を取り下げる。
2010年度
6/29 谷川浩司九段がほそ島やの冷やし中華大盛を注文。中継室を訪れた里見香奈女流二冠が
「谷川先生も大盛りを頼むんですね」とコメントを残す。
2011年度
7/24 佐藤康光九段、達人戦でほそ島やの冷やし中華を頼むも、手違いで中華そばが届く。
2012年度
7/10 佐藤秀司七段、ほそ島やの冷やし中華の紅しょうが抜きを注文。
7/19 森下卓九段、昼食にほそ島や、夕食にみろく庵の冷やし中華を頼み、食べ比べをする。
09/17里見香奈女流四冠、マイナビ女子OPで昼食にみろく庵の冷やし中華を頼む。
中継されている対局では、東京・将棋会館で初めての食事注文。
2014年度
7/19 菅井竜也五段、電王戦リベンジマッチの夜食に冷やし中華を注文する。
2015年度
7/30 小林健二九段、ほそ島やの冷やし中華に上カツ丼を追加注文。
2016年度
6/29 丸山忠久九段、ほそ島やの冷やし中華にチャーシューを5枚追加するチャーシュー新手。
8/4 丸山忠久九段、みろく庵の冷やし中華に天ざるそばを追加注文。
8/26 丸山忠久九段、ほそ島やの冷やし中華大盛にチャーシュー3枚追加したものを2つ頼む。
2017年度
6/7 森下卓九段、紫金飯店の冷やし中華に餃子を追加。紫金飯店で半炒飯をつける手筋が流行る。
6/29 丸山忠久九段、ほそ島やの冷やし中華にチャーシューを5枚追加。
7/14 村山慈明七段、竜王戦の昼食でみろく庵の冷やし中華に唐揚げを3個追加する唐揚げ新手。
7/20 丸山忠久九段、ほそ島やの冷やし中華大盛にチャーシューを6枚追加。
8/10 藤井聡太四段、ほそ島やの冷やし中華大盛にチャーシューを2枚追加。
以降ほそ島やでチャーシューを追加する手筋が流行る。
9/21 丸山忠久九段、ほそ島やの冷やし中華大盛にチャーシューを6枚追加。