現在更新を停止しているものの、
将棋順位戦データベースはとても素晴らしいサイトである。
順位戦・名人戦をメインに各棋戦の予選からの成績を細くまとめていて、その労力には限りない敬意を払いたい。
しかし、第1期順位戦に関しては総成績しか記述がなく、かつ七、六段(B級)に関しては14戦している棋士と15戦している棋士が混在している。
これは資料が少ない事によるものなのだが、今回国立国会図書館で戦後すぐの将棋世界を調べた事により、第1期順位戦の詳細が分かった。
よって、資料をまとめるついでに公開しておく。
以下は全て国立国会図書館憲政資料室日本占領関係資料、プランゲ文庫の
・将棋世界 [10巻6号(1946年6月)-13巻10月号(1949年10月)
からまとめたものである。
今回は第1期順位戦の概要を。
将棋世界1946年7月号p12~14に加藤治郎解説による「新機構の全貌」があり、ここに順位戦の規程が書かれているので引用する
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終戰後の棋界新發足に際し、將棋大成會は従來の昇降段制を廢し、左の新制度制定した。
(一)五段以上八段迄の段位を撤廢し順位制を採用す。
(二)名人を除く、第一位より第五十六位迄の順位を制定す。第一位より第八位迄をA級、第九位より第二十四位迄をB級、第二十五位より五十六位迄をC級。
(三)第五十六位以下は、四段より六段迄とし、
舊制度と同じ。
(四)順位戰の方法
第一期(本年度=五月―十二月)
(イ)八段十六名のリーグ戰(各一局宛)
(口) 七・六段十五名のリーグ戰(各一局宛の總平手)
(ハ)五・四段三十四名をニ組に分け、各組のリーグ戰(各一局、總平手)
右の如く(イ)(口)(ハ)三組のリーグ戰を行ひ、(1)勝局百二十點、敗局二十點とし、各組毎に夫々各人の平均點を算出す。
(2)(イ)八段戰に於ける各八段の午均點に、夫々三十五點を加算す。
(口) 七、六段戰に於ける七、六段の平均點はその儘とする。
(ハ) 五・四段機に於ける各五・四段の平均點より、夫々三十五點を減ず。
(3)斯くて算出された各棋士の平均點の高低により、第一位より第五十六位までの順位と決定し(A、B、C三級も同時に制定)第五十七位以下は四段となる
(4)但し、(口)、(ハ)組より夫々(イ)(口)組に昇進する場合は、譬え下の組の棋士の平均點が高くとも、上の組の勝ち越し者の下位につくものとす。
又、平均點の如何に関はらす二階級の昇降を認めず。
(5)平均點が同點となりたる場合は。同組内に於ては決戦、他の場合は舊段位の高低により定める。
(五) 名人戰(本年度=二十二年一月―三月)第一位は名人候補として名人に挑戦する。
挑戦試合は、従來通り七對局。勝者(四勝)は名人位に就き、敗者は第一位となる。
(六) 順位戦並に名人戦は一期を一ケ年とす。
(七) 第二期以降における順位戰の方法(昭和二十二年四月―十二月)
(1)A、B、C各級内に於て夫々リーグ戰を行ひ(A級=先後二局宛、B級=一局宛、C級=二組に折牛し、各組一局宛)、(四)第一期の方法に準して、新順位並にA、B、C級を制定す。
但し。加減の點数を第一期と同様三十五點とするか否かは未定。
(2)各級間のリーグ職と同時に、四段級間のリーグ載を行ひ、C級―四段間の昇降も(1)に準して、同時に行ふ。
(4)
(註・原文ママ)四段級のリーグ戰には.實力あらばアマチユア棋客の参加を認める。
(4)同成績の場合は前期の順位よる但し第一位(A級第一位)は決戦によつて決す。 ´
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これまでの昇段ルールが持点制度だったこともあって、順位戦の勝敗にも持点制度を採用しているのが今となっては逆に新鮮に思える。
アマチュアの参加を認める(第3期で実現)等は今取り入れても良いようなルールもあって、木村名人肝入りで新しい将棋界を作ろうという意欲が感じられる。
勝ち越し優遇(現実では35点の持ち点が大きく該当者なし)のルールが第1期順位戦からあるのも特筆すべき所(2018年現在ではなくなってしまったが)。
細かい所では、(四)(5)のルール。
近代将棋史年表の記載に対して将棋世界1981年5月号の声の団地で坂本一裕氏が
(4)「B級順位決定戦に松田辰雄六段が五位」とあるが、松田の成績は八勝六敗であって、松田茂行、北楯修哉、長谷川清二郎と同率である。当初予定されていた同率決戦を都合で取りやめたので、この四者をいずれも五位とすべきである。
(中略)
(6)「C級順位戦で四位松浦、五位山川」とあるが、両者は十勝四敗の同成績であり、同率決戦もないので、二人を同率四位とすべきである。
と指摘したのに対し、日本将棋連盟調査室が
一般論としてはごもっともです。しかし連盟棋士は、ご承知の通り、各級の定数と毎年必ず何人かの昇降級を行う制約から、否応なく順位が決められる。同率は棋歴によって順位を決める。止むを得ないことです。
従ってこの点はご意見として承っておき、紙幅に余裕があるときは同じ勝率であることを補足したいと思います。
という回答をしたのは、この旧段位優先ルールを棋歴にも援用したものと思われる。
(実際に正しいかどうかは、次記事で触れる事とする)
長くなったので一旦区切り、星取表等第1期順位戦の結果等は記事を分けて紹介する。