勝ち抜き戦の五人抜きは、現在棋戦優勝扱いとなっている。
ブラッシュアップ版・東西対抗勝継戦優勝履歴
上記記事で指摘しているように、五人抜きについては優勝記録の漏れが散見されるのであるが、
・勝ち抜き戦の五人抜きは今までどういった扱いを受けてきたか
・それは時代によってどう変わっていったか
・優勝記録はどのような経緯で漏れてしまったのか
といった事情の一例を、『将棋年鑑』の棋士名鑑における花村元司九段の記述から見ていこうと思う。
以前の将棋年鑑を読むと、勝ち抜き戦の五人抜きは「受賞」という形であり、棋戦優勝そのものとは区別されていた事が分かる。
「昭和51年版将棋年鑑」日本将棋連盟
註・以下棋士名鑑の画像において、住所欄は念の為塗り潰します
内藤國雄九段と花村九段の項を見れば分かるが、勝ち抜き戦の五人抜きと高松宮賞は「受賞」回数に加算されており、優勝回数には含まれていない。
ちなみに花村九段の受賞4回の内訳は、
・名人A級勝ち抜き戦2回(12回7連勝・14回5連勝)
・東西対抗勝継戦1回(13回6連勝)
・高松宮賞1回(第9回東京新聞社杯)
の4回である。
であれば勝ち抜き戦の五人抜きは棋戦優勝ではないじゃないか、と思うのは早計で、当時は
「五人抜きは受賞であるが棋戦優勝と同等の扱いをする」
という事になっていた。
それは大山康晴十五世名人の記録を見れば分かる。
「将棋一路」大山康晴 産業経済新聞社 1956 156p
大山名人の著書で1956年の時点でのタイトル戦と棋戦優勝を合算した「タイトル獲得数」が触れられているが、ここでは五人抜き(名人A級勝ち抜き戦)2回も含まれている。
1975年の第25期棋聖戦で大山名人は100回優勝したと発表されるが、これにも五人抜き(名人A級勝ち抜き戦)4回が含まれており、五人抜きは元々棋戦優勝扱いではあったのだ。
その後、1977年度に五人抜きの取り扱いが変わる。
「昭和53年版将棋年鑑」日本将棋連盟
この時、勝ち抜き戦の五人抜きは優勝回数に含むように変更された。
その理由として考えられるのが、同年創設されたオールスター勝ち抜き戦である。
オールスター勝ち抜き戦にも棋戦優勝を設けたいなんらかの事情があって、元々五人抜きは優勝扱いであった事もあり、統合したのではないかと推測される。
ただし、この時点では棋戦優勝扱いになった「受賞」は五人抜きだけである。
米長邦雄八段と有吉道夫八段の受賞回数を見ると、東西対抗勝継戦は優勝に移ったが、高松宮賞は受賞のままである事が分かる。
「昭和51年版将棋年鑑」日本将棋連盟
「昭和53年版将棋年鑑」日本将棋連盟
棋士名鑑における花村九段の項目は、1978年以降しばらく変化はなかったが、昭和57年度版の『将棋年鑑』でミスが起こってしまう。
今まで
>>39年〔高松宮賞〕。「五人抜き戦」など優勝3回。
であったのが、
>>39年、〔高松宮賞〕、「五人抜き戦」など優勝3回。
に変わってしまったのである。
これまで見てきた通り、花村九段の高松宮賞と五人抜きを合わせた回数は4回であり、五人抜きが優勝に変わってからは、五人抜き優勝3回、高松宮賞受賞1回が内訳になる。
よって〔高松宮賞〕の後は句点であるはずなのだが、ここで読点にしてしまったため、後に高松宮賞も棋戦優勝扱いにした時に誤読してしまう事になった。
現在発表されている記録を見てみよう。
棋士データベース花村元司九段
(念の為言及すると、将棋年鑑の物故棋士欄でも棋戦優勝は3回となっている)
高松宮賞とは別に棋戦優勝3回だったはずなのが、高松宮賞を含めて棋戦優勝3回となってしまっている。
その結果、現在花村九段の優勝回数は、当初将棋年鑑に記載されていた回数より1回減ってしまったのである。
それでは、花村九段の棋戦優勝回数は4回が正しいのだろうか。
例えばこんな記事がある。
夕刊北海タイムス1948/7/27
夕刊三社の棋戦「新鋭争覇戦」で花村六段(当時)が優勝し、7月に塚田正夫名人と記念対局を行っている。
近代将棋史年表にも記載されているこの棋戦にも、花村九段は優勝していると見てよいだろう。
棋戦進行表
まだ全ての新聞を掘れているわけではないので暫定であるが、花村九段の棋戦優勝は少なくとも5回あると私は考えている。
最後に、今回の内容をまとめる。
・元々勝ち抜き戦の五人抜きは「受賞」であって、「棋戦優勝」とは別の取り扱いをしていた。
・しかしながら、各棋士の優勝回数(タイトル獲得数)を数える際は五人抜きも計算に入れていた。
・1977年度になって、五人抜きは「棋戦優勝」に含まれるようになった。
・その後なんらかのミスが生じ、何人かの棋士の棋戦優勝歴が漏れてしまっている。
・1953年度以前の成績については、記録が残っていないので漏れている棋戦優勝歴が多くある。
1. うっそー!
Re:うっそー!
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